株式会社の簿記(その6) 第四編 株式会社の記帳と決算
1.株式会社の資本 2.利益の処分と損失の処理
3.社債
1.株式会社の資本
(1)株式会社の設立
1)株式と資本
・株式会社の資本は、株式を発行して多くの出資者(株主)から現金等の提供を受けて調達する。
・株式会社を設立する為には、商法の規定により、先ず会社の根本規定である定款を作成し、会社の目的、名称(商号)等と共に
「会社が発行する株式の総数」(これを「授権資本」と云う)を定める。
設立に当っては、この授権資本の1/4以上の株式を発行しなければならない。(商法第166条第3項)
残りの株式は、会社の必要に応じて、取締役会の決議により発行する事が出来る。(これを「授権資本制度」と云う)
・株式には、1株の額面金額が定められている「額面株式」と、これが定められていない「無額面株式」が有る。
会社の設立に際して発行する額面株式の1株の額面金額及び無額面株式の1株の発行金額は、共に50,000以上と
定められている。(商法第166条第2項、同168条ノ3)
・株式会社の資本金は、原則として発行済み株式の発行価額の総額で有り(額面金額を下回る価額で額面株式を発行する事は
商法上禁じられている商法第202条第2項)、1株の発行価額に発行済み株式数を掛けた金額を資本勘定で処理する。
・株式会社設立の際の資本金の最低額は1,000万円である。(商法168条ノ4)
(例)T商事株式会社は、設立に当って、授権資本10,000株(額面株式6,000株、1株の額面金額50,000と無額面株式
4,000株)の内、額面株式を1,500株、無額面株式を1,000株、それぞれ1株50,000で発行し、その全部について
引受けが済み、払込を受け、払込金は当座預金とした。
借方:当座預金 125,000,000 / 貸方:資本金 125,000,000
額面株式の発行による資本金 50,000 X 1,500(株) = 75,000,000
無額面株式の発行による資本金
50,000 X 1,000(株) = 50,000,000
2)創立費
・株式会社の設立の為に支出した定款の作成費、株式の発行費用、設立登記の為の費用等を「創立費」と云う。
創立費は、支出した会計期間にだけ役立つ費用ではないので、設立後の会計期間に分割し、費用として処理する事が出来る。
この様に、一時的に資産と見なし、次期以降に繰延べる事が認められた費用を「繰延資産」と云う。
・繰延資産として処理する場合は、会社がこれら諸費用を支払った時、「創立費勘定」(資産の勘定)の借方に記入し、
商法の規定により会社設立後5年以内に、毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。
従って、決算時には償却額を「創立費償却勘定」(費用の勘定)の借方に記入すると共に、創立費勘定の貸方に記入する。
(例)a:T商事株式会社は、設立手続きを終了し、株式の発行その他設立までの費用1,000,000を小切手を振出して支払った。
借方:創立費 1,000,000 / 貸方:当座預金 1,000,000
b:決算に当り、創立費の内、200,000を償却した。
借方:創立費償却 200,000 / 貸方:創立費 200,000
3)開業費
・開業準備の為に支出した広告宣伝費、通信費等、会社設立後、開業までに支出した諸費用を「開業費」と云う。
開業費は、創立費と同様に繰越試算として処理する事が出来る。
この場合には、商法の規定により開業後5年以内に、毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。
・開業費を繰延資産として処理する場合は、会社がこれら諸費用を支払った時、「開業費勘定」(資産の勘定)の借方に記入する。
そして、決算時に償却した時は、その償却額を「開業費償却勘定」(費用の勘定)の借方と開業費勘定の貸方に記入する。
(例)a:T商事株式会社は、開業準備の為の諸費用800,000を小切手を振出して支払った。
借方:開業費 800,000 / 貸方:当座預金 800,000
b:決算に当り、開業費の内160,000を償却した。
借方:開業費償却 160,000 / 貸方:開業費 160,000
*創立費と開業費*
<−−−−− 創立費 −−−−−−−−> <−−−−−− 開業費 −−−−−−−>
△===================△===================△
設立準備 (設立準備の為の費用) 設立 (開業準備の為の費用) 開業
開始
(2)増資
・株式会社の設立後、取締役会の決議によって、新たに株式を発行して資本金を増やす事を「増資」と云う。
1)株式払込剰余金
・額面株式及び無額面株式を発行した場合、発行価額の総額を資本金とするのが原則であるが、発行価額の1/2を超えない額を
資本金に組み入れ無い事が認められている。
但し、額面株式に付いては額面を超える部分であり、設立の際発行する無額面株式に付いては、50,000を超える部分である。
(商法第284条ノ2第1項、第2項)
・株式の発行価額の内資本金に組み入れ無い部分は、資本準備金として積立てなければならない。
この部分の金額は、「株式払込剰余金勘定」(資本の勘定)または「資本準備金勘定」(資本の勘定)の貸方に記入する。
株式払込剰余金の金額 = 発行価額 − 資本金に組入れた金額
*資本金に組入れなければならない最低額の例*
*設立時*
・額面株式
額面金額(50,000)と発行価額(60,000)の1/2を比較して多い方の金額が
資本金に組入れなければならない最低額。
・無額面株式
最低発行価額(50,000)と発行価額(60,000)の1/2を比較して多い方の金額が
資本金に組入れなければならない最低額。
*増資時*
・額面株式:設立時と同じ。
・無額面株式:発行価額(60,000)の1/2の額。
(例)a:T商事株式会社は、開業2年後に、額面株式300株(1株の額面金額50,000)を、1株60,000で発行して増資を行い、
その全部の引受けが済み、払込を受け払込金は、当座預金とした。 尚、発行価額の内、1株につき10,000は資本金に
組入れない事にした。
資本金となる金額 =(発行価額60,000−資本金に組入れ無い額10,000)X発行株式数300
=15,000,000
払込余剰金となる金額 =資本金に組入れ無い額10,000X発行株式数300
=3,000,000
借方:当座預金 18,000,000 / 貸方:資本金 15,000,000
株式払込余剰金 3,000,000
b:T商事株式会社は、開業3年後に、無額面株式500株を1株につき60,000で発行して増資を行い、その全部の引受けが
済み、払込を受け払込金は、当座と金とした。 尚、発行価額の内、1株に付き30,000を資本に組入れない事にした。
資本金となる金額 =(発行価額60,000−資本金に組入れ無い額30,000)X発行株式数500
=15,000,000
払込余剰金となる金額 =資本金に組入れ無い額30,000X発行株式数500
=15,000,000
借方:当座預金 30,000,000 / 貸方:資本金 15,000,000
株式払込余剰金 15,000,000
c:T商事株式会社は、開業10年後に、額面株式500株を、1株に付き120,000で発行して増資を行い、その全部の引受けが
済み、払込を受け払込金は、当座預金とした。 尚、発行価額の内、1株に付き60,000を資本金に組入れない事にした。
資本金となる金額 =(発行価額120,000−資本金に組入れ無い額60,000)X発行株式数500
=30,000,000
払込余剰金となる金額 =資本金に組入れ無い額60,000X発行株式数500
=30,000,000
借方:当座預金 60,000,000 / 貸方:資本金 30,000,000
株式払込余剰金 30,000,000
2)新株発行費
・増資の為の株式発行費用を「新株発行費」といい、創立費等と同様に繰延資産として処理する事が出来る。
この場合は、商法の規定により、支出後3年以内に毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。
・新株発行費を繰延資産として処理する場合には、その支出額を「新株発行費勘定」(資産の勘定)の借方に記入する。
そして、決算時に償却した時は、その償却額を「新株発行費償却勘定」(費用の勘定)の借方と新株発行費勘定の貸方に記入する。
(例)a:T商事株式会社は、新株発行の為の費用600,000を小切手を振出して支払った。
借方:新株発行費 600,000 / 貸方:当座預金 600,000
b:決算に当り、新株発行費の内200,000を償却した。
借方:新株発行費償却 200,000 / 貸方:新株発行費 200,000
(3)減資(資本の減少)
・会社が事業規模の縮小や欠損金(資本の額から、資本金と法定準備金を差引いた額がマイナスと成った金額を云う)のてん補等を
目的として資本金を減少させる事を「減資」と云う。
・減資した資本金の額が現金等の払戻し額や、欠損のてん補額を超える時、その超過額は「減資差益勘定」(資本の勘定)で処理する。
(例)a:K商事株式会社は、事業縮小の為、発行済額面株式の内、100株(1株の額面金額50,000)を、1株に付き50,000で
小切手を振出して買入れ、これを償却した。
借方:資本金 5,000,000 / 貸方:当座預金 5,000,000
b:上記例aにおいて、1株につき46,000で買入れた場合。
借方:資本金 5,000,000 / 貸方:当座預金 4,600,000
減資差益 400,000
c:K商事株式会社(資本金5,000,000 額面株式 100株 額面@50,000)は、未処理損失2,000,000をてん補する為、
2株を1株に併合して減資を行った。
減資額 = 資本金5,000,000 X 併合割合1/2 =2,500,000
借方:資本金 2,500,000 / 貸方:未処分損失 2,000,000
減資差益 500,000
2.利益の処分と損失の処理
(1)利益の処分
・株式会社では、当期純利益を「未処分利益勘定」(資本の勘定)の貸方に振替えて、次期に繰越す。
(例)K商事株式会社は、第1期の決算の結果、当期純利益1,500,000を計上した。
借方:損益 1,500,000 / 貸方:未処分利益 1,500,000
損 益 未処分利益
−−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
費用 |収益 |当期純利益 <===|
2,000,000 | 3,500,000 | 1,500,000 |
−−−−−−−−| |−−−−−−−−−−−− |
当期純利益 | |
|== 1,500,000 | |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−− |
|=======================================================
・未処分利益で繰越した利益は、決算日後3ヶ月以内に開かれる株主総会の決議によって、次の様な項目に処分され、処分額は、
未処分利益勘定からそれぞれの勘定の貸方に振替えられる。
@利益準備金
・株式会社では、商法の規定により(商法第288条)、毎決算期に利益の処分として会社が支出する金額(株式配当金及び
役員賞与金等)の1/10以上を、資本金の1/4に達するまで積立てなければならない。
これを「利益準備金」と云い、その積立額を「利益準備金勘定」(資本の勘定)の貸方に記入する。
A株主配当金
・株主に対する利益の配分を「株主配当金」と云う。
株主総会で株主配当金の支払が決議された時は、その金額を「未払株主配当金勘定」(負債の勘定)の貸方に記入する。
B役員賞与金
・取締役及び監査役に対する利益の分配額を「役員賞与金」と云う。
株主総会で役員賞与金の支払が決議された時は、その金額を「未払役員賞与金勘定」(負債の勘定)の貸方に記入する。
C任意積立金
・利益準備金の様に法律の強制ではなく、定款の規定または株主総会の決議によって、利益の一部を積立てたものを
「任意積立金」と云う。 任意積立金には、以下のようなものが有る。
a:配当平均積立金:利益の少ない年度でも一定の配当が出来る様にする為の積立金。
b:新築積立金:店舗等の新築をする為の積立金。
c:別途積立金:特定の目的を持たない積立金。
・株主総会でこれらの任意積立金に積立が決議された時は、その金額をそれぞれの勘定(何れも資本の勘定)の貸方に記入する。
D繰越利益
・上記の様な項目に利益を処分した後の残額は、「繰越利益勘定」(資本の勘定)の貸方に記入する。
この貸方残高は、期末に純利益と共に未処分利益に含めて、次期の株主総会で利益処分の対象となる。
・利益処分の結果、利益準備金、任意積立金、繰越利益は、資本として社内に留保される。
未払株主配当金と未払役員賞与金は負債であるから、株主や役員に支払われ、その支払額だけ資本が社外の流出する。
(例)6/28 第1期株主総会で、未処分利益1,500,000が次の様に処分され、残額は次期に繰越した。
利益準備金90,000 株主配当金800,000 役員賞与金100,000
新築積立金250,000 別途積立金150,000
借方:未処分利益 1,500,000 / 貸方:利益準備金 90,000
未払株主配当金 800,000
未払役員賞与金 100,000
新築積立金 250,000
別途積立金 150,000
繰越利益 110,000
*注:繰越利益勘定を設けないで、利益処分の残額(繰越利益)をそのまま未処分利益勘定に残し、次期に繰越す方法も有る。
借方:未処分利益 1,500,000 / 貸方:利益準備金 90,000
未払株主配当金 800,000
未払役員賞与金 100,000
新築積立金 250,000
別途積立金 150,000
7/1 株主配当金800,000、役員賞与金100,000を小切手を振出して支払った。
借方:未払株主配当金 800,000 / 貸方:当座預金 900,000
未払役員賞与金 100,000
3/31 第2期決算の結果、当期純利益900,000を計上した。
尚、繰越利益勘定の残高が110,000有る。
借方:繰越利益 110,000 / 貸方:未処分利益 1,010,000
損益 900,000
|===============================================|
| |
| 繰越利益 未処分利益 |
| −−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−− |
=== 振替高 |利益処分後残高 |繰越利益 <===
| 110,000 | 110,000
−−−−−−−−−−−−−− |−−−−−−−−
|当期純利益 <===
損 益 | 900,000 |
−−−−−−−−−−−−−−−−− | |
費用 | |−−−−−−−− |
1,100,000| |
−−−−−−−−| 収益 |
|===== 当期純利益 | 2,000,000 |
| 900,000| |
| (振替高) | |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| |
========================================
*前記例の総勘定元帳への記入例*
未処分利益
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3/31次期繰越 1,500,000|3/31損益 1,500,000
======| =======
6/28利益準備金 90,000|4/1 前期繰越 1,500,000
6/28未払株主配当金 800,000|
6/28未払役員賞与金 100,000|3/31繰越利益 110,000
6/28新築積立金 250,000|3/31損益 900,000
6/28別途積立金 150,000| /
6/28繰越利益
110,000| /
| /
3/31次期繰越 1,010,000| /
−−−−−−−| −−−−−−−−−−−
2,510,000| 2,510,000
=======| ========
利益準備金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3/31次期繰越 90,000|6/28未処分利益 90,000
======| =========
|4/1 前期繰越 90,000
未払株主配当金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
7/1 当座預金 800,000|6/28未処分利益 800,000
======| =========
繰越利益
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3/31未処分利益 110,000|6/28未処分利益 110,000
======| =========
(2)損失の処理
・決算の結果、当期純損失(商法では当期損失と云う)が生じた時は、その額を「未処理損失勘定」(資本の勘定)の借方に振替える。
この場合、繰越利益が有れば、先ずこれによりてん補し、その差額を未処理損失勘定の借方に振替えて、次期に繰越す。
*注:当期純損失から繰越利益を直接減額しない方法も有る。
借方:未処理損失 850,000 /貸方:損益 850,000
繰越利益 130,000 未処理損失 130,000
(例)3/31 第3期決算の結果、当期純損失が生じた。 尚、繰越利益勘定の残高が130,000有る。
借方:繰越利益 130,000 / 貸方:損益 850,000
未処理損失 750,000
======================================================
| |
| 繰越利益 損 益 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
=== 振替高 |利益処分後残高 費用 | 収益 |
| 130,000 3,000,000 | 2,150,000 |
−−−−−−−−−−−−−−−−−− ・・・・|−−−−−−−−−− |
↑ |繰越利益 <==|
未処分利益 当期純損失 | 130,000
−−−−−−−−−−−−−−−−−− | |−−−−−−−−−−
=== 720,000| ↓ |未処分損失720,000 <===
| −−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−|−−−−−−−−−− |
| |
========================================================
・未処理損失は、株主総会の決議によって処理される。 普通、この処理は、任意積立金を取崩して行われ、任意積立金でてん補出来ない
損失額は「繰越損失勘定」(資本の勘定)の借方に振替える。
この繰越損失は、次期以降の利益でてん補する。
しかし、てん補の見込みが無い時は、利益準備金、資本準備金の順に取崩しててん補する。(商法第289条第2項)
(例)6/28 第3期の株主総会において、未処理損失720,000を処理する為、別途積立金450,000を取崩し、残額は
繰越損失にする事にした。
借方:別途積立金 450,000 / 貸方:未処理損失 720,000
繰越損失 270,000
*注:未処理損失勘定で繰越す方法も有る。
借方:別途積立金 450,000 / 貸方:未処理損失 450,000
未処理損失
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3/31損失 720,000|3/31次期繰越 720,000
=====| ======
4/1 前期繰越 720,000|6/28別途積立金 450,000
|6/28繰越損失 270,000
繰越損失
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
6/28未処理損失 270,000|
別途積立金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
6/28未処理損失 450,000| 450,000
・尚、前期からの繰越利益が当期損失より大きい場合は、その差額を未処分利益勘定の貸方に振替える。
(例)決算の結果、当期順損失が145,000生じた。 尚、繰越利益勘定の残高が260,000有る。
借方:繰越利益 260,000 / 貸方:損益 145,000
未処分利益 115,000
*注:当期順損失を繰越利益から直接減額しない方法も有る。
借方:繰越利益 260,000 / 貸方:未処分利益 260,000
未処分利益 145,000 損益 145,000
3.社債
(1)社債の発行
・株式会社は、商法の規定に基づいて、広く一般の人々から長期資金を借入れる為に社債を発行する事が出来る。
これによって生じる長期の負債を「社債」と云う。
・社債を発行した時は、「社債勘定」(負債の勘定)の貸方に額面金額で記入する。
社債は普通、額面金額より低い価額で発行される。
これを「割引発行」と云う。(割引発行の他に、額面金額より高い価額で発行する「打歩発行」と、額面金額で発行する「平価発行」が有る)
この場合の額面金額と発行価額との差額は「社債発行差金」と云い、創立費と同様に繰越資産として処理する事が出来る。
・社債発行差金を繰越資産として処理する時は、「社債発行差金勘定」(資産の勘定)の借方に記入する。
この社債発行差金は、社債の償還期までの利息の前払いの性質を持っている。
・社債発行の為に必要な募集費用、社債券の印刷費等の費用は、「社債発行費」と云い、繰越資産として処理する事が出来る。
社債発行費を支出した時は、「社債発行費勘定」(資産の勘定)の借方に記入する。
(例)4/1 T産業株式会社(決算年1回 3月末日)は、額面金額8,000,000の社債を償還期限10年、年利率6%(利払年2回
3月と9月の末日)、@98の条件で発行し、払込金は当座預金とした。
尚、社債発行の為の費用210,000は、小切手を振出して支払った。
払込金 = 額面総額8,000,000 X @98/@100 = 7,840,000
社債発行差金 = 額面総額8,000,000 X (@100−@98)/@100 = 160,000
借方:当座預金 7,840,000 / 貸方:社債 8,000,000
社債発行差金 160,000
借方:社債発行費 210,000 / 貸方:当座預金 210,000
(2)社債の利払
・社債対する利息は、普通年2回、半年毎に支払われる。 これを「社債利息」と云う。
・社債の利息は次の様に計算する。
額面金額 X 年利率 X 6月/12月 = 半年分の社債利息
・社債利息を支払った時、借入金の利息を処理する支払利息勘定と区別して「社債利息勘定」(費用の勘定)の借方に記入する。
(例)9/30前記例の社債について、第1回の利息(半年分)を、小切手を振出して支払った。
社債利息=額面金額8,000,000 X 年利率0.06 X 6/12(月) = 240,000
借方:社債利息 240,000 / 貸方:当座預金 240,000
(3)社債発行差金と社債発行費の償却
・社債発行差金と社債発行費を繰延資産とする場合には、商法の規定により、社債発行差金はその社債の償還期間内に、
社債発行費は社債発行後3年以内に、それぞれ毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。
・社債発行差金を償却した時は、「社債発行差金償却感情」(費用の勘定)の借方と、社債発行差金勘定の貸方に記入する。
・社債発行費を償却した時は、「社債発行費償却勘定」(費用の勘定)の借方と、社債発行費勘定の貸方に記入する。
(例)3/31決算に当り、前記例の社債発行差金について、社債の償還期限10年にわたって毎期均等額を償却する事にした。
また、社債発行費について、3年間にわたって同じく均等額を焼却する事にした。
社債発行差金償却額=社債発行差金160,000 ÷ 10年 = 16,000
社債発行費償却額=社債発行費210,000 ÷ 3年 =70,000
借方:社債発行差金償却 16,000 / 貸方:社債発行差金 16,000
借方:社債発行費償却
70,000 / 貸方:社債発行費
70,000
(4)社債の償還
・発行した社債は、いずれは償還しなければならない。 この社債の償還には、次の種類がある。
*社債の償還−−満期償還:償還期限(満期)が来た時に償還する方法。
|−随時償還−−抽選償還:分割して償還する方法で、抽選で分割償還する社債を決める。
|−買入償還:社債市場から、償還期限前に時価で買入て償却する方法。
(社債市場と会社の返済資金との関係から臨時的に償還される)
@満期償還
・最終の償還期限に、全額を償還した時、額面金額で社債勘定の借方に記入する。
(例)3/31前記例の社債が満期になったので、小切手を振出して、全額を償還した。
(社債利息の支払、社債発行差金の償却は、それぞれ別に行われる)
借方:社債 8,000,000 / 貸方:当座預金 8,000,000
A抽選償還
・抽選によって、償還する社債が決定した時に、その全額を額面金額で社債勘定から「未払社債勘定」(負債の勘定)の貸方に
振替える。 この時、償還する社債の社債発行差金の未償却残額が有れば、一時に償却しなければならない。
(分割して償却する事を条件に発行した場合には、社債の減少に応じて、社債発行差金の償却も行う事も有る)
(例)a:額面総額50,000,000の社債を抽選によって償還する事に決定した。 尚、この社債に対する社債発行差金残高は
200,000である。
借方:社債 50,000,000 / 貸方:未払社債 50,000,000
社債発行差金償却 200,000 社債発行差金 200,000
b:上記未払社債を小切手を振出して支払った。
借方:未払社債 50,000,000 / 貸方:当座預金 50,000,000
B買入償還
・社債を買入れた時、額面金額で社債勘定の借方に、買入価額を当座預金等の支払手段の勘定の貸方に記入する。
額面金額と買入金額の差額は、「社債償還益勘定」(収益の勘定)または「社債償還損勘定」(費用の勘定)で処理する。
尚、償還する社債の社債発行差金の未償却残高の処理は、抽選償却の場合と同じである。(一括償却する)
(例)額面総額60,000,000 償還期限10年 @97の条件で発行した社債の内、20,000,000を発行後7年目の
初めに@98で買入償還し、小切手を振出して支払った。 尚、償還する社債に対する社債発行差金残高240,000
を償却した。
借方:社債 20,000,000 / 貸方:当座預金 19,600,000
社債償還益 400,000
借方:社債発行差金償却 240,000 / 貸方:社債発行費 240,000
社債発行差金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
前期繰越 720,000|社債発行差金償却 240,000
|
社債発行差金償却
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
社債発行差金 240,000|
|
社 債
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
諸口 20,000,000|前期繰越 60,000,000
|
社債償還益
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|社債 400,000
|
*社債発行差金償却と社債償還益を相殺する方法*
社債発行差金償却の金額と社債償還益の金額とを相殺する方法も有る。
社債償還益400,000 − 社債発行差金償却240,000 = 160,000
借方:社債 20,000,000 / 貸方:当座預金 19,600,000
社債発行差金 240,000
社債償還益 160,000