財務管理概要(その4)
9.予算管理
10.原価管理
11.資金管理
9.予算管理
(1)予算管理
@予算管理の目的・意義
・予算とは、利益計画を具体的に実行する際の指針を示すもので、全社及び部門別に利益計画を如何に実施するか、計数で示した
数値計画である。
企業の行う個々の経営活動は、この予算を達成する為に行われ、予算を次の機能を持って実施する事が、予算管理である。
a.計画機能
各部門から積上げられる資料とトップの政策的な判断が整合されて、計画を立案する機能。
b.調整機能
各部門の活動が円滑に行われる様に相互に調整し、共通目的に向かって、効率的に活動出来る様にする機能。
c.統制機能
予算と実績の差異を分析し、その原因を究明する事で、必要な対策や手段を取って行く機能。
A予算管理の体系
・予算は先ず、予算貸借対照表と予算損益計算書から成る総合予算があり、更に総合予算は、長期の期間予算である資本予算と
1年以内の短期予算である経常予算に大別出来る。
総合予算−−−−−−−−資本予算−−−−−−−−−−設備予算 −
予算貸借対照表 | |−−−−−−−−−投資予算 |
予算損益計算書 | |予算貸借対照表
|−経常予算−−−資金予算−−−現金収支予算 |
| |−−信用予算 −
|
|−−損益予算−−−販売予算−−−売上高予算 −
| |−−製品在庫予算 |
| |−−販売費予算 |
| |
|−−製造予算−−−製造高予算 |
| |−−製造原価予算 |予算損益計算書
| |−−在庫予算 |
| |−−購買予算 |
| |−−物流予算 |
| |
|−−研究開発費予算 |
|−−一般管理費予算 −
・資本予算は、事業年度(通常1年)毎の売上や費用、利益及び資金の動きを対象にしたものであり、現金収支予算等の資金予算と
販売予算等の損益予算に細分する事が出来る。
・製造部、購買部、営業部等各部門毎に色々な予算を編成するが、これらの予算を総称して部門予算とも云う。
(2)予算編成の方法
@予算編成の方法
・予算を編成する方法としては、天下り法、積上げ法、折衷法の方法が有るが、経営トップから各部門に対して予算編成を指示し、
各部門では、その範囲内で予算を作成する折衷法が、最も良く使用されている。
・予算編成方針とは、中・長期計画等に従い、当年度の具体的利益計画を設定し、これを達成する為に必要な目標値(売上、費用、
利益、効率等)を指示するものである。
A部門予算編成の方法
・予算編成は先ず、見積損益計算書や見積貸借対照表を作成し、それに基づいて総合予算やそれを構成する売上予算や製造高予算、
販売費予算等の各種の部門予算を作成する手順で行われる。
・部門予算の中で特に重要な、売上高予算編成の方法についての説明。
見積損益計算書の売上計画を達成する為には、第一に過去の売上実績を分析し、長期的趨勢を調べ、第二に周期的変動や異常値等の
変動要因を除外し、第三に現状と将来に亘る市場や企業を取り巻く環境を分析・予測し、自社の売上の変動要因を把握した上で、売上高
を決定する必要が有る。
また、会社方針や中長期計画等の利益計画との整合を図り、最終決定すべきものである。
B資金予算編成の方法
・売上高予算等の部門予算が編成されると、次に現金収支や信用予算等の資金予算を編成する。
・現金収支予算は、現金不足時に万全の準備をする為、また現金に余裕が生じた時にこれを有効に活用する為に、実施するものであり、
期間中の売上高予算を基に、信用予算に依存しながら作成する。
期首及び期末の残高並びに期中の現金収支予定から構成される。
10.原価管理
(1)原価管理
@原価管理
・原価管理とは、利益計画の一環として、目標利益を獲得する為に、売上高に占める売上原価について、計画・統制するものである。
・企業の安定的な発展に必要な原価引下や原価構造改善の目標を設定すると共に、その具体的な計画を立案し、実際の経営活動の
中で、この実現を目指して管理する活動とも云える。
・原価管理は、財務会計制度としての原価計算と財務会計外で随時、断片的に行う特殊原価調査とに大別出来る。
A原価の種類
・原価計算には、目的により色々な原価が規定されている。
・企業会計新議会の原価計算基準に従い、次の様な原価が存在する。
a.実際原価と標準原価
実際原価とは、経営の正常な状態を前提として、実際の取得価格を持って計算した原価の実際発生額であり。
標準原価とは、ある期間内における消費量を、科学的な方法で設定した原価標準に基づいて算出した原価である。
b.製品原価と期間原価
製品原価とは、一定単位の製品に集計された原価を云う。(製造原価に相当)
期間原価とは、一定期間における発生額を当期の収益に直接対応させて把握した原価である。(販売費・一般管理費に相当)
c.全部原価と部分原価
全部原価とは、製品に関わる全ての製造原価と販売費・一般管理費を加えた原価である。
部分原価とは、そのうちの一部のみを集計した原価である。
最も重要な部分原価として直接原価(変動原価)がある。
(2)原価計算
@標準原価計算
・標準原価計算とは、原価単位毎に科学的な方法により標準原価を設定し、それに標準消費量を掛けて原価を算出する方法であり、
目標原価としての意味合いを持つ。
標準原価 = 標準直接材料費 + 標準直接労務費 + 製造間接費
標準直接材料費=標準価格 × 標準消費量
標準直接労務費=標準賃率 × 標準直接作業時間
製造間接費=固定間接費予算額 + 変動間接費予算額 × 総標準時間
・標準原価と実際に発生する原価とは相違が生じるため、目標の原価に近づける為の原価差異分析を行う必要がある。
差異分析は、予算(予定)と実績(実際発生額)との差異内容の分析であり、原価差異以外にもある。
差異分析−−−売上高差異−−−販売価格差異
| |−−販売数量差異
|
|−−標準原価差異−−−標準直接材料費差異
|−−標準直接労務費差異
|−−製造間接費差異
・標準原価差異は、次の公式で算出する事が出来る。
a.標準直接材料費差異
価格差異 = 実際消費量 × (標準価格 − 実際価格)
消費量差異
= 標準価格 × (標準消費量 − 実際消費量)
直接材料費の原価差異
−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
↑
| 価格差異 |
| −−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
実 ↑ | | |
際 標 | |消 |
価 準 | 標準材料費 |費 |
格 価 | |量 |
| 格 | |差 |
| | | |異 |
↓ ↓ | | |
−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|<−− 標準消費量−−−−−−−−−>| |
| | |
| |
|<−−−−−実際消費量−−−−−−−−−>|
|
b.標準直接労務費差異
賃率差異 = 実際作業時間 × (標準賃率 − 実際賃率)
作業時間差異 = 標準賃率 × (標準作業時間 − 実際作業時間)
直接労務費の原価差異
−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
↑
| 賃率差異 |
| −−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
実 ↑ | | |
際 標 | |作 |
賃 準 | 標準労務費 |業 |
率 賃 | |時 |
| 率 | |間 |
| | | |差 |
↓ ↓ | |異 |
−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|<−− 標準作業時間−−−−−−−−>| |
| | |
| |
|<−−−−−実際作業時間−−−−−−−−>|
|
c.製造間接費差異
操業度差異 = (標準作業時間×標準賃率) − (標準作業時間に対する許容予算額)
管理可能差異 = 標準作業時間に対する許容予算額 − 実際発生額
・標準原価と実際発生原価との差異を分析し、その製品原価を確保すると共に、将来の原価低減に必要なデータを経営各層に
提供する事が重要である。
A実際原価計算
・実際原価計算は、製品の実際発生額を費目別に計算し、次に原価部門別に計算し、最後に製品別に集計する手続きを取る。
・実際原価計算は、製品原価の計算と財務会計とが、実際原価をもって有機的に結合している原価計算制度と云える。
a.費目別計算
一定期間の原価要素を費目別に分類測定する手続きである。
費目は先ず、直接費と間接費に大別し、更に直接材料費、直接労務費、直接経費、間接材料費、間接労務費、間接経費に
細分し集計される。
b.部門別計算
費目別計算により把握された原価を、原価部門別に分類集計する手続きである。
原価部門とは、製造部門と非製造部門に大別され、更に企業の組織に合わせ細分される。
c.製品別計算
原価要素を一定の製品単位に集計し、単位製品の製造原価を算出する手続きを云う。
製品別計算は、企業における生産形態の種類に対応して、次の様な類型に区分出来る。
・単純総合原価計算:同種製品を反復連続的に生産する生産形態に適用
・等級別総合原価計算:同一工程に於いて、同種製品を連続生産するが、その製品を形状、大きさ、品位等の等級に区別する
生産形態に適用
・組別総合原価計算:異種製品を組別に連続生産する生産形態に適用
・個別原価計算:種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用
B直接原価計算
・直接原価計算とは、原価を製品の生産量との関係で変動費と固定費に区分し、製品原価を変動費だけで算出する。
固定費は、期間原価として扱う原価計算である。
・実際原価計算や標準原価計算は、全ての費用を各製品原価として配分する全部原価計算であるが、直接原価計算は製品原価として
個別に配賦出来る変動費のみを製品原価とし、固定費は製品原価とせず、期間原価として処理するものである。
・直接原価計算のメリット
a.利益計画立案に必要な原価と操業度と利益に関する情報が損益計算書から簡単に入手出来る。
b.一定期間の利益が在庫量の増減により変動する事無く、売上高に比例して増減する。
c.直接原価計算による製造原価報告書や損益計算書は、経営者の考え方と密接に結び付いているので、理解が容易に出来る。
d.一定期間の固定費が損益計算書に記載されるので、固定費の増減が利益に与える影響を示す事が出来る。
e.変動費は、製品を製造するのに必要な当期の現金支出額とほぼ同じで、資金管理にも役立つ。
(3)特殊原価調査
・特殊原価調査とは、財務会計の範疇外に有り、随時、断片的に行なわれるもので、次の原価が使用される。
@取得原価:現在の市場における原価
A埋没原価:回収不能の実際原価
B差額原価:製造活動の変化の結果生じる原価の変動額
C機会原価:選択可能な代替案の内の一つを取った場合、他を捨てた結果減少する測定可能な価値犠牲額
D付加原価:財務会計上の原価で無いが、意思決定によっては算出するべき必要のある原価
・その他、現金支出原価、回避可能原価、延期可能原価、未来原価がある。
11.資金管理
(1)企業資金管理
・資金管理とは、企業活動の中で必要な資金を調達し、円滑且つ効率的に運用出来るように管理(計画、調整、統制)するものである。
・資金運用効率を向上する目的で行うものであり、資金の円滑な循環(財務流動性の確保)と資金の総量を調節する事である。
・資金は、次の3種類に大別出来る。
@現金資金
日々〜3ヶ月以内に入出金する現金や受取手形等を云う。
支払不能を回避する目的で、資金繰り表を用いて管理を行う資金管理である。
A運転資金
原材料や加工賃、生産販売に要する諸費用の支払に当てる資金を云う。
これらは1年以内に現金化し入出金するもので、支払能力を確保する目的で、資金運用表を用いて管理を行う資金管理である。
B固定資金
1年以上の長期に亘って入出金する建物、機械設備等の資金を云う。
資本管理により管理を行う。
・日常の資金管理の中で特に重要な現金資金管理と運転資金管理の相違は以下の通り。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
| | 現金資金管理 | 運転資金管理 |
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|目的 |支払不能の回避 |支払能力の確保 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|対象資金 |日々の支払や手形決済の現金預金を |営業活動に投入されている資金 |
| |対象とする | (正味運転資金)を対象とする |
|−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−|
|対象期間 |日々〜3ヶ月の短期 |6ヶ月〜1年程度の比較的長期 |
|−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−|
|管理ツール |資金繰り表 |資金運用表 |
|−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−|
|管理ポイント |支払不能の回避を重視した金額的 |財務諸表等を考慮の上、現金資金管理|
| |期間的な安全性を要求される |との整合性を重視している |
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(2)現金資金管理
・資金管理の中で最も中心になるのが現金資金管理であり、資金繰り表によって管理される。
・資金繰り表の基本的な考え方は、次の式で表せる。
現金の増減 = 現金資金期末残高 − 現金資金機種残高
= 当期収入 − 当期支出
現金資金期首残高 + 当期収入 − 当期支出 = 現金資金期末残高
・将来の資金繰りで、支出>収入、と成った場合、安易に借入を予定せず、支出費用の削減や回収の促進等の対策を講ずる事が重要。
(3)運転資金管理
・運転資金は、営業活動に要する資金を示すが、財務流動性の立場から言えば、流動資産から流動負債を差引いた額である正味運転資金
最低必要額を維持する事が重要。
・流動負債の形で調達され、流動資産の形で運用されている運転資金の変動の状態を分析し、適正運転資金を把握する事が必要。
・正味運転資金は、次の式で表せる。
正味運転資金 = 流動資産 − 流動負債
= 固定負債 + 資本 − 固定資産
= (流動資産の増加 − 流動資産の減少) − (流動負債の増加 − 流動負債の減少)
= (固定資産の減少+固定負債の増加+資本の増加) − (固定資産の増加+固定負債の減少+資本の減少)
・資金運用表の標準様式(前期と当期の比較により増減を把握する)
1.資金の源泉(貸借対照表の貸方)
@固定負債の増加 XXX
A自己資本の増加 XXX
B固定資産の減少 XXX XXX
−−−
2.資金の使途(貸借対照表の借方)
C固定負債の減少 XXX
D自己資本の減少 XXX
E固定資産の増加 XXX XXX
−−− −−−
F差引 正味運転資金の増加 XXX −−>長期資金の動き
===
3.正味運転資金増減の原因
G流動資産の増加 XXX
H流動負債の減少 XXX XXX
−−−
I流動資産の減少 XXX
J流動負債の増加 XXX XXX
−−− −−−
K差引正味運転資金の増加 XXX −−>短期資金の動き
===
注:FとKの金額は同額と成る
・正味運転資金の分析結果を示した表が資金運用表であり、2期の各期末における貸借対照表を基に、各科目の増減を算出整理した
ものである。
・正味運転資金が前期に比べて減少している場合、支払能力が低下している事を意味しており、減少原因を調査し早急な対策を講じる
必要がある。
・正味運転資金の増減要因
@正味運転資金の増加要因:利益の増加、長期借入、資産売却の場合など
A正味運転資金の減少要因:利益の減少、流動負債で固定資産投資している場合など
・正味運転資金減少時の対策としては、利益を増加させる事は勿論、売上債権の回収促進等の資産効率を上げる事も重要である。