財務管理概要(その3)
7.財務分析
8.利益計画
7.財務分析
(1)財務分析
・財務分析は、企業の財務諸表(決算書)を分析して企業の財政状態や営業成績を判断するものである。
・企業の経営活動を総合的に評価する事が経営分析であり、財務諸表分析がその中心を成している。
(2)財務分析の種類
・主体と目的を基準とすると、外部分析(信用分析、投資分析、税務分析、監査分析など)と内部分析(経営管理者)とに大別される。
(3)財務分析の方法
分析の方法−−実数による分析
|−比率による分析
@実数による分析は、決算書の金額を用いて分析する方法である。
連続した2期の決算書の増減から貸借対照表については資金運用表分析が、損益計算書については利益増減分析がされる。
A比率による分析は、相互に関係ある二項目の比率を算出する関係比率分析と全体に対する構成部分の比率を算出する構成比率分析
がある。 更に、連続した2期以上の貸借対照表及び損益計算書の比率を用いて分析する方法には、趨勢分析と指数分析がある。
(4)経営比較の種類
・経営比較には3つの方法がある。
@期間比較:同一企業の前期の数値や比率と比較して、変化を明かにする。
A相互比較:相手企業の数値や比率と比較して、比較企業との差異を明かにする。
B標準比較:同業他企業の標準値と比較して、業界に占める地位を明かにする。
(5)中小企業庁方式の分析
・中小企業庁編「中小企業の経営指標」による分析計数の算出方法(製造業向け)に付いて述べる。
・「中小企業の経営指標」を作成する目的は、中小企業の経営合理化や、中小企業の診断指標の参考資料として役立たせる為である。
・「中小企業庁方式」の財務分析の要点。
a.特定の財務諸表様式を使って作成し、計算式に従って経営指標を算出して分析を行う。
b.製造業の場合の分析計数は、総合、財務、生産、販売、労務、と分類して合計30の指標にしている。
c.各種の比率・効率などは、便宜上期末の計数を基準に算出する。
d.支払利息・割引料を管理費に含める。
従って、営業利益は支払利息・割引料を差引いたものと成っている。(受取利息は営業外収益に計上する)
e.手形割引額は、受取手形勘定から除く。
f.経営資本は、総資産から直接には経営活動に参加していない資産を除いたものである。
例えば、建設仮勘定、投資、繰延資産など。
g.販売費と管理費を分ける。
h.固定長期適合率の分母は、自己資本+長期借入金。
i.生産高は、純売上高−当期製品仕入原価。
j.加工高は、生産高ー(直接材料費+買入部品費+外注工賃+間接材料費)
@収益性
a.資本利益率
・経営活動に参加した資本が上げた利益であり、企業全体の総合成績を表す比率として最も重視されている。
比率が高いほど企業の収益性が良い。
中小企業(製造業)の標準比率は8%程度と成っている。
営業利益
経営資本対営業利益率 = −−−−−− × 100 (%)
経営資本
経常利益
自己資本対経常利益率 = −−−−−− × 100 (%)
自己資本
経常利益
総資本対経常利益率 = −−−−−− × 100 (%)
総資本
b.売上利益率
・売上高と利益もしくは費用の関係として捉える。
総利益
売上高対総利益率(マージン率) = −−−−−− × 100 (%)
純売上高
販売費+管理費
販売・管理費比率 = −−−−−−−− × 100 (%)
純売上高
支払利息+割引料−受取利息
売上高対支払利息比率 = −−−−−−−−−−−−−− × 100 (%)
総売上高
営業利益
売上高対営業利益率 = −−−−−− × 100 (%) 売上高と営業利益の割合で、営業活動の収益性が分かる。
純売上高
経常利益
売上高対経常利益率 = −−−−−− × 100 (%)
純売上高
c.資本回転率
・資本の効率であり、経営資本と売上高の関係で見る。
収益性のみならず、流動性の観点からも大切な分析指標である。
純売上高
経営資本回転率 = −−−−−− (回)
経営資本
純売上高
製品回転率 = −−−−−− (回)
製 品
純売上高
受取勘定回転率 = −−−−−−−−−− (回)
受取手形+売掛金
純売上高
固定資産回転率 = −−−−−− (回)
固定資産
A流動性
a.流動比率
・企業の短期負債に対する支払準備の程度、即ち支払能力が明かにされる。
この比率は、高い程良く、目標水準は200%とされている。
流動資産
流動比率 = −−−−−− × 100(%)
流動負債
・これには業種別の特性を知る事が大切であり、資金回収スピードと、流動比率の高低は連動しない場合もある。
一般には、100%未満の場合は、問題として指摘できる。
・中小企業(製造業)の標準比率は160%程度と成っている。
流動資産 − 流動負債 = 正味運転資本 と成る事を、合わせて考えると良い。
b.当座比率
・当座資産は、流動資産から換金性について不確実な棚卸資産、その他流動資産を除外する。
一般的に棚卸資産は、資金化に時間が掛かるので注意を要する。
酸性試験比率とも呼ばれ、即時支払能力を測定するものである。
当座資産
当座比率 = −−−−−− × 100 (%)
流動負債
・中小企業(製造業)の標準比率は、120%程度と成っている。
当座資産 = 現金・当座預金 + その他の預金 + 受取手形 + 売掛金
c.自己資本対固定資産比率
・一般的には、固定資産比率と呼ばれて、固定資産に投下された資本の内、どの程度が自己資本によって賄われているかを示す。
目標水準は、100%以下である。
固定資産
自己資本対固定資産比率 = −−−−−− × 100(%)
自己資本
・中小企業(製造業)の標準比率は、150%程度と成っている。
d.固定長期適合率
・長期資本の固定化の程度を見るものである。
一般的に、100%を超えると安定性に問題があると指摘できる。
固定資産
固定長期適合率 = −−−−−−−−−−− × 100(%)
自己資本+長期借入金
・中小企業(製造業)の標準比率は、75%程度と成っている。
e.総資本対自己資本比率
・一般的には、自己資本比率と呼ばれている。
資本構成を示し、企業の安全性を評価するものである。
この比率は、高ければ良い。 目標水準は、50%である。
一般的に22%以下は、自己資本不足として指摘できる。
自己資本
総資本対自己資本比率 = −−−−−− × 100(%)
総資本
・中小企業(製造業)の標準比率は、35%程度と成っている。
B生産性
a.従業員1人当り年間生産高、加工高
・一般に「労働生産性」と呼ばれ、生産性の向上が重視されている。
純売上高−当期製品仕入原価
従業員1人当り年間生産高 = −−−−−−−−−−−−−−− (千円)
従業員数
生産高−(直接材料費+買入部品費+外注工賃+間接材料費)
従業員1人当り年間加工高 = −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (千円)
従業員数
b.加工高比率
・一般に「付加価値率」と呼ばれている。
加工高は、「付加価値」の事である。
加工高
加工高比率 = −−−−−− × 100(%)
生産高
・中小企業(製造業)の標準比率は、45%程度と成っている。
c.加工高対人件費比率
・一般に「労働所得分配率」と呼ばれ、「ラッカープラン」が有名である。
事務員・販売員給料手当+直接労務費+間接労務費+福利厚生費+賄費
加工高対人件費比率 = −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ×100(%)
加工高
・中小企業(製造業)の標準比率は、40%程度と成っている。
d.機械投資効率
・一般に「設備生産性」と呼ばれている。
加工高
機械投資効率 = −−−−−− (回)
設備資産
C分析の纏め
・レーダーチャートは分析計数をグラフにより示したものである。
収益性、生産性及び安全性(流動性)に付いて、分析企業の数値と同業種の標準値との比較が一目で分かるので、「中小企業の
経営指標」のレーダーチャートを参考に活用する。
8.利益計画
(1)利益管理
・利益管理とは、企業の目的である利益を獲得し、
@ゴーイングコンサーンたる為、
Aまた、企業体質を強化し、
B将来への投資に備える為に必要な
利益を計画し、統制する為の活動である。
・従って、目標利益を獲得する為に必要な売上高及び許容費用の把握を行い、利益計画を策定し、計画実現に向けた活動で有ると云える。
・この計画や管理を簡単に表現したものに、利益を売上高や費用・資本を用いて図式化し、把握する方法が良く用いられる。
(2)利益計画と目標利益
・利益計画には、期間を固定せず特定のプロジェクトに関する個別計画と一定期間の経営活動を示す期間計画が有り、以下の様な体系で
表せる。
利益計画−−期間計画−−中・長期利益計画(3〜5年)
| | 売上・利益・人員・設備投資・新製品計画等
| |
| |−短期利益計画(1年以内)
| 販売・製造・研究開発・資金計画・管理費等
|
|−個別計画(特別プロジェクト毎)
・図表の利益計画を立案する時の利益は、次の公式で表せる。
売上高 − 利益 = 許容原価(費用) −−> 利益計画の公式:ネッペルの公式
売上高 − 費用(原価) = 利益又は損失 −> 制度会計上の公式
・従来の制度会計上では、利益は売上高から費用を差引いた残りで有ったが、利益計画上では、売上高から利益分を控除した残りの
許容費用で経営活動を行うべきと云うもので有る。
・利益計画上の目標利益を算出する方法には、標準比較法、相互比較法、期間比較法、公式法などが有る。
(3)損益分岐点分析
・目標利益を決定したら、利益獲得に必要な売上高や許容費用を損益分岐点分析等の方法により、算出する。
・損益分岐点分析は、CVP(Cost−Volume−Profit−Analysis)とも云われ、目標利益を獲得するのに必要な売上高や費用の関係を
関係分析を行い、費用と売上高が一致し、利益がゼロになる損益分岐点を把握するものである。
・損益分岐点分析の成立には、次の条件が全て満たされる必要が有る。
@総費用を固定費と変動費に分解が可能である事。
A対象期間内では、固定費は一定であり、変動費は売上高に比例する事。
B対象期間内では、売価、能率、生産性、単位原価等は変わらない事。
C対象期間内では、対象製品の構成比率が一定である事。
D期首と期末の在庫の変動が無い事。
・この成立条件は、実際の経営活動とはかけ離れており、この点が損益分岐点分析の限界でもある。
@費用分解の方法
・総費用を売上高の増減に関係無く総額が固定的な固定費と、売上高に比例して増減する変動費に分解する。
・費用分解の代表的な方法は、勘定科目法、散布図表法、最小自乗法等が有る。
・また、実際には売上高に比例して増減はしないが、一定期間における総額が変動する変動費、及びある操業度の下では総額が変動する
固定費が存在し、それぞれ準変動費と準固定費と云う。
A利益図表の作成と利益公式
・費用分解が終わったら、目標利益を達成する為の売上高を算出する。
・売上高:S、利益:P、固定費:F、変動費:V、変動比率:v(=V/S)とすると、目的利益を達成する為の売上高Sは、
S = P + Sv + F (目標達成売上高=利益+変動費+固定費)
S(1−v) = P + F
S = (P+F) / (1−v)
(1−v)は限界利益率であり、もれをMとすると、利益P=0の時、
S = F / M (損益分岐点売上高=固定費/限界利益率)
これが、損益分岐点売上高(利益がゼロと成る点の売上高と費用)を導く公式である。
↑ | 利益
売 | / /
上 | //
・ | //
費 | 総費用線 // ↑
用 | 固定費+ / / ↑
・ |変動費/ / ↑
損 | / / ↑
益 |/ / 売上高線 ↑ 変動費
|−−/−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|損失 ↑ 固定費
|/ ↑
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
↑ 売上−>
損益分岐点売上高
・この作成方法は、先ず正方形を書き、横軸に売上高、縦軸に売上高と費用(固定費、変動費)の目盛りを付ける。
次に、売上高線を左下から右上に対角に引く。
更に、固定費は一定であるから横軸に平行な直線となる。
また変動費は、固定費の左端から斜めに変動費比率の傾きを持った直線と成る。
・この変動費線と固定費線の合計が総費用線であり、総費用線と売上高線の交差した点が、損益分岐点売上高と成る。
・損益分岐点を境にして、右上段の総費用との差が利益となり、左下段の総費用との差が損失である。
・目標達成売上高以外で重要な公式は
損益分岐点販売数量=固定費/(販売単価−単位変動費)
=固定費/単位限界利益
安全余裕率=(売上高−損益分岐点売上高)/売上高
=1−損益分岐点比率
B損益分岐点を下げる方法
・売上高の大幅な増加が期待できない場合、目標利益を獲得する為には、損益分岐点を下げる事が必要で有る。
損益分岐点を下げるには、公式から、
S=F/M (売上高=固定費/限界利益率) であるから、損益分岐点を下げるには、
@固定費(F)を削減する。
A限界利益率(M)を上げる(変動費率を下げる)。
変動費率は、 変動費率=変動費/売上高 であるから
1 変動費ダウン
=−−−−−−−− × −−−−−−− と成る。
販売価格アップ 生産数量
つまり、販売価格を上げると同時に、単位当りの変動費を下げる事が、損益分岐点を下げる事に繋がる。
C製品の組合せが変化する場合
・損益分岐点は、多品種少量生産を行っているような企業には適さない。
期首と期末の在庫や期中の製品の組合せが変化する為である。
・この様な場合は、限界利益図表は、個々の製品の限界利益率を高率のものから積上げる事により、最適の製品組合せ(プロダクト
ミックス)を求める事が出来る。
(4)利益・資本図表
@資本回収点分析
・目標利益を算出する方法に、利益獲得に必要な売上高と総資本を用いて行う、資本回収点分析がある。
・資本回収点分析は、損益分岐点分析と同じ様に、変動資本と固定資本に総資本を分解し、売上高線と総資本線が交わる点(総資本
回終点)を求める。
総資本回収点は、総資本が1回転する売上高を示し、資本回収率を表すものである。
・総資本回収点の売上高が少ない程、資本回転率は高くなり、効率良い資本活用がされている事を示す。
公式は、 S=資本回収点、K=固定資本、d=変動資本 とすると
S = K / (1−d) となる。
A利益・資本図表
・長期的な観点から利益計画を考える場合、売上高と総費用並びに総資本との関係で評価する必要がある。
事業再構築(多角化、新事業展開)等の内容に応じた調達資本や許容費用で目標利益を検討する為である。
・これが利益・資本図表であり、目標利益が、資本利益率で表現されている場合に有効である。
・資本利益率で示す目標利益達成売上高の公式。
S=目標利益到達点、F=固定費、r=目標資本利益率、K=固定資本、v=変動比率、d=変動資本率
S = (F+rK) / (1−v−rd)
・目標利益を達成する為の総資本が当該企業の総資本と一致しない時は、目標利益そのものの達成が困難な場合であるから、
@売上高の一層の増加、A損益分岐点の引下、B資本回収点の引下等の対策を講じて、変動資本・固定資本の提言を図り、
資本回収率を高める工夫をする必要がある。